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【取材レポ】私財を投げ打ち、「雄町」の普及に生涯を賭けた村長がいた!

「オマチスト」と呼ばれる熱狂的なファンも数多く存在する、絶大な人気を誇る酒米「雄町」。この雄町の魅力を余すところなく伝えたいと、メディア関係者を対象にしたセミナーが1月23日(木)に東京・新橋で開かれたので、参加してまいりました。

コンセプトは「ももてなし」!鳥取・岡山のアンテナショップで開催

店舗外観

セミナーの会場は、鳥取県・岡山県のアンテナショップ「とっとり・おかやま新橋館」。新橋から歩いてすぐと、アクセスは抜群です。コンセプトは「ももてなし」。岡山県といえば「もも(桃)」、鳥取県といえば「なし(梨)」ということで、「もも」と「なし」、それに「おもてなし」する気持ちを込めているのだとか。

雄町の“95%”が岡山県産、降水日数が日本一少ない「晴れの国」

講師市田真紀さん

セミナーの講師は、岡山市在住の利き酒師・ライターの市田真紀さん。「雄町について語り出したら1日あっても足りない!」と言うほど雄町に惚れ込み、毎年必ず生産農家さんを訪れているそうです。

日本酒好きなら知っている方も多いでしょうが、「雄町」は、酒米の王様「山田錦」や「五百万石」のルーツに当たる品種。生産は岡山県に集中し、実に全国の総生産量の約95%を占めているのです。その主な理由はというと、瀬戸内海沿岸の温暖な気候、一級河川(旭川、吉井川)がもたらす豊富な水と栽培に適した土壌、そして「晴れの国」と呼ばれるほどの降水日数の少なさなどが挙げられます。岡山県は、降水量1mm未満の日数がなんと年間276.8日もあり、全国1位なのだそうです。

ワイルドな個性派・雄町は、ふくよかで幅のある深い味わいが魅力

大粒で球状の心白を持ち、軟質で溶けやすいのが雄町の特徴。吸水性も高いため、麹づくりの際なども細心の注意を払って吸水時間を厳密に計ることが欠かせないそうです。

雄町で醸したお酒は、上品な甘み、ふくよかで幅のある味わい、深みのあるコク、余韻の長さや心地よさを楽しむことができます。酒造りがしやすい品種と言われる優等生・山田錦とはまた違ったワイルドで大らかな個性が、「オマチスト」はもちろん多くの日本酒好きをうならせている酒米です。

雄町に、自らの“人生”を捧げた熱き男達がいた!

雄町は、100年以上途切れることなく栽培され続けている唯一の品種。日本最古の、混血のない原生種です。発見は、1859年。備前国・雄町に住む篤農家・岸本甚造氏が、伯耆大山(ほうきだいせん)参拝の帰りに見つけた2本の穂を持ち帰ったのが始まりとされています。その後、1866年に選抜改良。当初は「二本草」と名付けられましたが、全国で普及が進むにつれ、地名にちなみ「雄町」という名前で呼ばれるようになりました。

雄町が広く普及した陰には、ある男性の人生を賭けた執念があったそうです。その方とは、大正時代に赤磐郡軽部村の村長を務めた加賀美章氏。酒米としての優秀性をPRするために、精力的に全国の酒蔵を行脚。必死の努力が実を結び、昭和初期には、「雄町でなければ品評会で入賞できない」とまで言われるほど、圧倒的な人気を誇るようになりました。加賀美氏は、私財を投げ打って活動に尽力したため、最期には財産はほとんど残っていなかったと言われています。

しかしその後、食管法の改正によって生産が激減。もともと背が高く栽培が難しいこともあり、戦中戦後を経て減少の一途をたどり、ピーク時の1917年には9,000haもあった作付面積は、1973年にはなんと3haに。いつしか“幻のコメ”となって、忘れ去られようとしていました。

そんな“幻のコメ”雄町に注目したのが、同じく軽部村の利守酒造の社長・利守忠義氏です。復活を目指し、農家を一軒ずつ訪れ栽培を依頼。10年にも及ぶ努力が結実し、雄町100%の純米大吟醸酒「酒一筋」が、1984年から3年連続で全国新酒鑑評会で金賞を獲得するまでにいたりました。

雄町は、草丈が160cm以上にもなるため倒れやすく、病害虫にも弱いため、栽培が困難なのは今でも変わりません。しかも化学肥料を嫌う傾向がある上、収量も低い品種です。大変な苦労で栽培を続けてくださっている生産農家さんたちには、心から感謝ですね。

2日間限定で、恒例の“地酒バー”もオープン!

バーバナー

セミナーが開催された1月23日(木)と翌24日(金)には、毎年恒例の人気イベント「備前焼で愉しむ雄町米の地酒場(BAR)」が開催。入場料は2000円とお手頃で、しかも備前焼のぐい吞みまで付いてくるとあって、17時のオープン前から大勢のお客さんが列をなすという盛況ぶりです。その光景を見て、関西からたまたま遊びに来ていた某有名蔵の社長さんが、「東京はすごいな」と驚いた顔でつぶやいていたのが印象的でした。

今年は岡山県から、利守酒造(赤磐市)、室町酒造(赤磐市)、宮下酒造(岡山市)の3蔵が参加されました。

利守酒造さんブース

1868年創業の利守酒造からは、専務取締役の利守弘充さんがいらっしゃいました。利守酒造は、先ほどご紹介した、“幻のコメ”雄町の復活に尽力した酒蔵です。イチオシ銘柄は「赤磐雄町 荒走り」。荒走りとは、もろみを入れた酒袋を槽(ふね)と呼ばれる搾り機に並べ、最初に垂れてくるお酒のこと。新酒のできる季節に味わうことのできる希少なお酒です。米作りから酒造りまで一貫した造りを目指しており、雄町ならではの濃醇な味わいが、多くのファンに支持されています。

室町酒造さんブース

室町酒造からお越しになったのは、まだ31歳の専務・花房利宇(まさたか)さん。1688年創業と岡山県でも屈指の歴史を誇り、雄町に特化した酒造りで知られています。全国名水百選のひとつ「雄町の冷泉」で仕込むお酒は、口当たりが柔らかく雄町特有の旨味が堪能できる仕上がりが魅力です。「蔵の個性がとりわけ出やすい雄町は、造り手としてやりがいを感じる」とおっしゃる花房さん。その若いパワーと感性で、今後もますます美味しいお酒を造っていって欲しいですね。

宮下酒造さんブース

宮下酒造からは、営業課長の林克彦さんが参加されました。1915年の創業以来、常に新しいチャレンジを続け、多彩なお酒を造る総合酒類メーカーとして、今や岡山県になくてはならない存在感を放っています。地域の特長を活かした独創的なお酒を楽しんでもらいたいと日々邁進。芳醇でしっかりとした味わいの美酒を数多く醸している酒蔵です。

岡山の刺身の代名詞「サワラ」など、名物満載のおつまみコーナー

サワラ

日本酒にピッタリ合うおつまみも、目移りするくらい豊富なバリエーションがそろっていました。中でも熱い視線を浴びていたのが、サワラのお刺身です。岡山県では、「刺身と言えば、サワラ」と言われるほど愛されているのだとか。バーでは、このサワラを豪快に解体ショーにて提供!たっぷりと濃厚ながら上品な味わいが口の中でやわらかくとろけ、雄町のお酒がいくらあっても足りないくらいでした。

選び放題の備前焼は、お持ち帰りOK!

備前酒器

雄町で醸した美酒を味わう酒器は、備前焼のぐい呑み。青備前や火襷(ひだすき)など、そうそうたる作家さんたちが手がけた器が勢揃いし、「どれもステキで選べない!」という悲鳴が、陶器好きの人達からあちらこちらであがっていました。

備前焼の作り方

釉薬を使わず、落ち着いた色彩の備前焼には、派手さの要素はありません。しかし、この渋さがたまらない「わびさび」だとして、欧米の方たちの間で人気が高まっているそうです。ちょっと厚手の器は、ふくよかでまるみのある雄町のお酒にやさしく寄り添ってくれますね。

【「とっとり・おかやま新橋館」店舗情報】
住所:東京都港区新橋一丁目11番7号 新橋センタープレイス1・2階
アクセス:
・東京メトロ銀座線「新橋」駅(3番出口 ※ビル直結)徒歩すぐ
・JR「新橋」駅(銀座改札)徒歩約1分
・都営浅草線「新橋」駅 徒歩約2分
・新交通ゆりかもめ「新橋」駅 徒歩約3分
定休日:年中無休(年末年始を除く)
公式サイト:https://www.torioka.com/

【取材】柴田 亜矢子
国際唎酒師、日本酒伝道師。日本酒の魅力を国内外に発信すべく日々活動中。

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酒蔵プレス編集部

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