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係数管理と官能的判断を組み合わせた品質管理【三千盛】三千盛-岐阜県

地域で愛される酒蔵の銘酒に着目し、酒蔵からの生の声と和酒情報を読者の皆様にお届けする連載企画。第119回目の当記事では、岐阜県多治見市(ぎふけんたじみし)の株式会社三千盛(みちさかり)を特集します。

―酒蔵の歴史や地域について教えて下さい。

江戸後期の安永年間(1772〜1780)に初代水野鐵治が開業し、現在、私(水野鉄治)で6代となります。

先代である水野高吉(父)は次男であったため鐵治を襲名せず(長男である父の兄は鐵一といい、サイパンで戦死)、昭和30年6月30日私が長男として生まれた時「鉄治」と命名し、このことにより物心がついた頃より家業としての酒造業を嗣ぐことの意識を持っていました。私の後継者の長男は鉄盛(28歳)と命名しました。家業であろうとなかろうと経営者はリレーランナーです。

さて、東濃(多治見市、土岐市、可児市、瑞浪市)は中世より窯業が発展した地域です。
これは陶磁器に適した陶土が大量にあったためで室町後期から戦国時代、江戸初期にいわゆる桃山陶が焼成され文化財に指定されたものが多数全国の美術館等に保管されています。

最も有名なものは卯の花籬 国宝 三井記念美術館、多治見市には室町前期に創建された永保寺(夢想国師建立)があり、観音堂及び開山堂(唐様の美しいお堂)が国宝に指定されており、永保寺が保存している文化財は年に一度公開されます。

―代表銘柄は?

当蔵の登録商標は「三千盛」のみでありそのブランドの内で「三千盛 まる尾」という商品があります。

三千盛はもともと江戸時代に尾張藩の水野地区瀬戸市の出身であり屋号を尾張屋といいますが、江戸末期から明治期にかけて尾張屋の尾の酒の上級商品を金まる尾、中級を銀まる尾、下級を炭まる尾と呼んで親しまれておりました。

その後昭和に入り、新ブランドとして「三千盛」を立ち上げ商品アイテムを増やしていきましたが、私の代になって最上級グレードとして「三千盛 まる尾」という商品を造ったのです。もちろんこれは切れ味の良い辛口という意味では江戸、明治期のまる尾と共通性がありますが、以前の物の復刻ではありません。

シンプルな塩味の料理とよく合う「三千盛」

―イチオシ商品はなんですか?地元の食材・料理とはどんな合わせ方がおいしいですか?

日本酒度+12の辛口で余分な甘みと雑味を徹底して排除し適正なる酸味と旨味とこくにより味のバランスが成り立っています。
そしてその味全体を白いベールで覆うように穏やかな吟香がありますが、この全ての香味を統一しているものが水の次に多い成分のエチルアルコールです。
これは他の食中酒であるワイン、紹興酒でも同じことが言えますが、この三種の醸造酒は歴史的な発展の過程で相方の料理が違い、各々の食と酒の世界を構築してきました。

現在様々なタイプの日本酒が世界市場へ発信されていますが、現代の日本酒の持つ香味の本質は高精白された米と米麴からの旨味とこく、清酒酵母の造る香りと有機酸等です。酒造家はこれらの要素を考え、素材(原料米、酵母等)を選択し、技術を組み合せて、最も望ましいバランスの香味とし、出来上がった酒(商品)を市場に問うているのです。

さて地元の食材、料理とその合わせ方ですが、美濃地域の食材としては川魚の鮎・いわな・あなご等で、三千盛には塩焼きが最も良く合います。
山菜類の天ぷらも美味しく、天つゆよりもシンプルな塩で食すのがおすすめです。その他、秋にはきのこ類が珍味で合いますが、近頃はなかなかとれないようです。

夜の静まった時に醗酵中の音を確認する、五感の全てを使って行う品質管理

―酒造りで心がけていることは?

清酒醸造においては二系統の管理項目があります。
一つ目が係数管理であり、原料玄米又は白米の絶対水分であり、浸漬米、蒸米の白米に対する吸水率であり又は絶対水分です。
製麹では種麴の量、品温経過、そして出来上がった麴のαアミラーゼとグルコアミラーゼの酵素力価を測定してGA比(グルコアミラーゼ力価/αアミラーゼ)を確認することが重要となります。
その他酒母と醪の毎日の5項目の一般分析とその管理は基本中の基本です。

原料水の分析は開始前に食品試験所等に依頼してチェックしておけばいいのですが、特殊な技術を使う場合はそれに関する分析が必要となり、すべての数値の関連性を考えていかねばなりません。

もう一つの管理項目は五感(味覚・嗅覚・触覚・視覚・聴覚)を使った官能的判断です。たとえば蒸米ならば味覚・臭覚・触覚・視覚を、麹では完成品と途中経過を含めてやはりこの4感覚を使います。
さらに酒母と醪(もろみ)では夜の静まった時に醗酵中の音を確認するので五感覚すべて使って行います。

(触覚は醗酵中の醪及び酒母を汲み上げ掌の中で握り潰し蒸米の溶解状態を確認する。そして口に含み香味をきく目視で醪の液面の状態を確認する)さらに係数管理と官能的判断を組み合わせ、時系列的に二系統の変化を理論と官能で確認しながら各工程を経て上槽から新酒の誕生となり当然のことでありますが、ここでも数項目の分析と製造歩合を計算し、味覚・嗅覚・視覚の官能検査が必要となります。

―酒蔵や地域、観光などでオススメポイントや盛り上がっている話題を教えて下さい。

弊社の町(多治見市笠原町)に数年前にモザイクタイルミュージアムが開館しました(笠原町は戦後タイル産業が発展し、モザイクタイルではかなりのシェアーを占めた)。
建物のユニークさ(藤森照信氏が設計)と共にタイルの歴史と現代の建築材料としての多様性を楽しみながら学ぶことができ、遠方より多数の来訪者があります。

―最後に、読者へのメッセージをお願いします!

いろいろな料理と弊社三千盛を合わせて家庭で晩酌を楽しんで頂きたいと思っています。
さらに酒器うつわ等も美濃焼で楽しんでいただいたり、季節により酒の温度帯を変えたりして自由に楽しんでいただければ幸いです。

今回ご紹介した酒蔵について

【岐阜県】
株式会社三千盛
https://www.michisakari.com/
岐阜県多治見市笠原町2919

 

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酒蔵プレス編集部

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