地域で愛される酒蔵の銘酒に着目し、酒蔵からの生の声と和酒情報を読者の皆様にお届けする連載企画。第53回目の当記事では、福井県永平寺町(ふくいけんえいへいじちょう)の田辺酒造(たなべしゅぞう)有限会社を特集します。
柔らかな飲み口と骨格のある米由来の旨みを引き出せるよう酒造り
―酒蔵の歴史や地域について教えて下さい。
曹洞宗大本山「永平寺」のお膝元永平寺町で、明治32年より酒造りを行っています。町内には、「清流の町」の象徴である霊峰白山を源とする九頭竜川が流れ、夏は鮎釣り、冬はサクラマス釣りで賑わいます。その為、かつては、酒造りも松岡藩の奨励産業とされ、町内には17軒もの酒蔵がある県内有数の名醸地として栄えました。
年間製造石数は、300石です。昔ながらの和釜による米蒸し作業を行い、醪は全て「槽搾り」で搾ります。
また、九頭竜川の柔らかな伏流水を活かした「吟醸造り」を基本とし、柔らかな飲み口と骨格のある米由来の旨みを引き出せるよう酒造りを行っています。
全国新酒鑑評会では、福井県唯一の6年連続金賞受賞(平成7年~12年)など、小規模蔵ながら数々の品評会にて入賞を果たしてきました。
杜氏の田邊丈路は、大学卒業後蔵に戻り、30年に渡り田辺酒造の酒造りを支えてきた鷹木美芳(南部流杜氏)に8年間師事し、平成24年より、杜氏に就任。
今年5月に発表された「令和2年度全国新酒鑑評会」において金賞を受賞しました。
―代表銘柄は?
- 越前岬
平成に入り、特定名称酒中心の酒造りに舵をきる際に、代表銘柄をこれまでの「優勝」から「越前岬」に変更。
冬になると、越前海岸の景勝地「越前岬」周辺は、福井の県花である越前水仙が斜面を覆うように綺麗に咲き乱れます。
また、時同じくして、弊社の寒仕込みも本番を迎えます。 冬の日本海の荒波と激しい吹雪に耐え忍ぶ水仙の如く、妥協せず、粘り強く酒造りに徹したいという思いと、福井の景勝地の名を頂くことで、「福井の酒」としての誇りを持って酒造りに徹したいという思いが込められています。
米・水・酵母全てが福井の風土に根差した純米大吟醸酒
―イチオシ商品はなんですか? 地元の食材・料理とはどんな合わせ方がおいしいですか?
- 越前岬 純米大吟醸 さかほまれ
「さかほまれ」は、福井県農業試験場と県酒造組合が新たに8年がかりで開発した「福井県独自の大吟醸用の酒米」です。
酵母も酢酸イソアミルを主体とする福井オリジナル酵母(FK-501)を使用し、米・水・酵母全てが福井の風土に根差した純米大吟醸酒を造りました。
白ブトウやマスカットを思わせる上品な香りと、甘みをベースに調和のとれた味わいが特徴です。冷やした状態から常温に品温が上がる頃が飲み頃です。
福井の甘エビの刺身がよく合います。地元では、近隣のスーパーでも新鮮なものがお手頃に買えます。新鮮だと粘りや甘みが絶品なので、醤油をかけずに、お酒と楽しめます。
酒蔵プレス唎酒師による「越前岬 純米大吟醸 さかほまれ」テイスティングノート
●香り
蓋を開けた瞬間から広がる吟醸香。グラスに注いでしっかりと吟味すると、華やかさもあり、アルコールの力強さもあるいい日本酒です。
●味わい
口当たりは日本酒のいい甘さが先立ち、口に広げる米のふくよかさとアルコールのピリピリ感があり、キレがよく、舌にブドウのようなジューシーで少し酸味がかった旨味と苦味が残ります。
●ペアリング
エビマヨと合わせると、エビの旨味とマヨネーズの酸味と合わさり、旨味・酸味・苦味が凝縮された素晴らしい味わいになります。エビだけでなく、アスパラ、じゃがいもを入れるのが個人的におすすめです! 基本的にマヨネーズとの相性がいいのでお試しください。
●総評
米が「さかほまれ」、水が「白山水系伏流水」、酵母が「福井酵母FK501」、蔵元杜氏がすべて福井にこだわった純米大吟醸。甘味と旨味が乗っていてクセがないので、すいすい飲んで気が付けばなくなっていました!
「福井の風土を生かした酒造り」
―酒造りで心がけていることは?
この地には、水、米、冬の寒さなど、酒造りにとっての好条件が揃っています。九頭竜川伏流水を使い、五百万石、越の雫、さかほまれ、九頭竜など福井県ならではの酒米品種を使い分け、特色が出せるように心がけています。また、土蔵内での11月中旬からの寒仕込みを基本とし、自然環境と共存し、その日毎の条件下で最善を尽くすように努めています。
飲んで頂けるお客様を思いながら、心穏やかに、慌てず、冷静な判断が出来るよう常に心掛け、感謝の気持ちを持って酒造りを行っています。
また、町内には、大学や県の研究機関も多いので、昔ながらの酒造りを大事にしながら、新たな感性を生かした商品開発も行っていきたいと思っています。
―酒蔵や地域、観光などでオススメポイントや盛り上がっている話題を教えて下さい。
蔵のある永平寺町には、町名でもある「永平寺」があります。永平寺は、1244年に道元禅師が開いた曹洞宗の第一道場で、「ZEN(禅)」は、今や世界に通じる共通言語になっています。
現在も、200名程の雲水たちが、日々厳しい修行を行っています。毎年、8月下旬には、九頭竜川で日本の河川敷では最大規模の大燈籠流しが行われ、幻想的な風景が風物詩になっています。
また、門前の参道はもとより、町内各地で蕎麦屋があり、福井名物「おろし蕎麦」をご堪能頂けます。蕎麦の上に、少し辛みのある大根がおろしてあり、かつお節とネギが添えられています。そして、冷たい出汁を直接蕎麦にかけて食べるのが一般的です。
―最後に、読者へのメッセージをお願いします!
福井県には、酒蔵が30軒あります。弊社の様な家族経営の酒蔵が殆どで、20代~40代の後継者が蔵に戻り、蔵元杜氏として酒造りに励んでいるのが特色です。是非、福井のお酒にも注目して頂ければと思います。私共も皆で切磋琢磨しながら、酒質向上に努めていきます。
そして、2023年には、北陸新幹線が福井まで延伸されます。これまで訪れる機会の無かった方も、是非、福井の食と酒を堪能しにお越し下さい。
最後に、当蔵は、えちぜん鉄道「観音町駅」下車2分、北陸自動車道「福井北IC」より5分と交通アクセスも抜群です。福井にお越しの際は、蔵へもお立ち寄り頂ければ幸いです。
今回ご紹介した酒蔵について
【福井県】
田辺酒造有限会社
https://echizenmisaki.com/
福井県吉田郡永平寺町松岡芝原2丁目24