地域で愛される酒蔵の銘酒に着目し、酒蔵からの生の声と和酒情報を読者の皆様にお届けする連載企画。第30回目の当記事では、長崎県南島原市(ながさきけんみなみしまばらし)の吉田屋(よしだや)を特集します。
今では数少なくなった「はねぎ搾り」の製法
―酒蔵の歴史や地域について教えて下さい。
大正6年創業。名水で知られる長崎県島原半島の南部に位置する南島原市有家町にあります。雲仙の伏流水が湧き出る自家井戸の水を仕込み水に使用して、東京農大花酵母研究会の花酵母を使って醪(もろみ)を仕込み、今では数少なくなった「はねぎ搾り」の製法で日本酒を造っております。
製造数量は90石と小さな酒蔵です。南島原には1637年の「島原の乱」で天草四郎達一揆軍が籠城した「原城」があり、2018年に長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産として世界遺産に登録されました。
島原の乱後当地にて農業を主に生業としてきましたが、江戸末から明治にかけて蝋締めを行いその後醤油製造や酒造業を行い、煙草製造を経て大正六年より現在に酒造業を行っています。
―代表銘柄は?
大正6年造り酒屋創業当時は創業者千代吉と菊夫妻の名前から酒の銘柄を「千代菊」としていたそうですが、他に商標登録されていたため後に「萬勝」に変更されました。
大正11年より「萬勝」を代表銘柄としています。謡曲「高砂」の中に「中にも この松は、萬木に 勝れて~萬民これを賞翫す」から取られた言葉で「萬(よろず)に勝(すぐ)れて、萬民(多くの人が)これを賞翫す(この味の良さを楽しむこと)」を願ってつけられました。
―イチオシ商品はなんですか? 地元の食材・料理とはどんな合わせ方がおいしいですか?
萬勝・復刻ラベル・純米大吟醸酒。創業100周年を記念して昔のラベルをリ・デザインしました。ラベルに描かれている桜に因んで桜の花酵母を使用しています。
長崎産の山田錦を50%まで磨いています。上品な香りと酸味のスッキリとしたお酒です。地元の料理 がんば(河豚)の湯引きやガネ炊きと合うと思います。湯引きは梅肉とポン酢でさっぱりと。
ガネ炊きは河豚をぶつ切りにして醤油・酒・梅干し・にんにくの葉と一緒に煮込んだ郷土料理です。甘辛く日本酒によく合います。
アベリアやつるバラ、ヒマワリなどの花酵母を使って仕込んでいます。
―酒造りではどんなことを心がけていますか?
東京農業大学花酵母研究会の花酵母を使って仕込を行っています。それぞれの酵母の特性を生かすように酒造りを行っています。
例えば、アベリアの花酵母や撫子の花酵母は華やかな香りが出やすいので純米大吟醸酒や純米吟醸酒に使用することや、香りがありながら力強い味わいのある、つるバラ酵母は純米酒。フレッシュな香りと清涼感のあるヒマワリ酵母は特別純米酒。それぞれの酒質に合わせて酵母を選んでいます。
そして、それらを伝統技法のはねぎの槽で搾っています。
―酒蔵や地域、観光などでオススメポイントや盛り上がっている話題を教えて下さい。
島原の乱の舞台となった原城跡、世界遺産にも登録されていますが、原城を舞台にした南島原市の観光動画に俳優の満島ひかりさんが出演されていて、今話題になっています。
他にも南島原市観光ショートフィルム「夢」では、当酒蔵もロケ地として紹介されています。
南蛮文化がもたらしたキリシタン文化と島原の乱後の仏教文化が混在している地域です。世界文化遺産と世界ジオパークにも認定されていて、今年雲仙普賢岳噴火災害から30年を迎える。
日本最初の国立公園である雲仙や有明海でのイルカウォッチングなどがお勧めです。酒蔵が位置する有家町では、毎年2月に「ありえ蔵めぐり」として5つの蔵を中心に蔵開きと町めぐりを融合した形でイベントを開催しています。
突撃!南島原情報局【神回】
南島原市観光ショートフィルム「 夢 」
―最後に、読者へのメッセージをお願いします!
全国でも珍しい「はねぎ搾り」と東京農大花酵母を使った酒造り、小さな酒蔵だからこそ出来るこだわりを大切に、企業にならなくとも家業としての造り酒屋を守り抜いて行きます。
是非一度ご賞味ください。コロナ禍が収まりましたら、是非酒蔵へ、はねぎ搾りの槽(ふね)を見学にお越しください。
今回ご紹介した酒蔵について
【 長崎県 】
合資会社吉田屋
https://www.bansho.info/
長崎県南島原市有家町山川785
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